NHK教育テレビ「アートのちから」
「心を映す水墨画」が放送されました。
皆様のお力添えのおかげで、とても良い番組になりました。
平林寺ロケ２日、スタジオ撮り１日。
この番組２５分の裏には、隠れた膨大なドラマがあります。
水墨を語ることは、心の世界のかかわりに触れないわけにはいかない。 どんなに時代が変わっても、どんなに作風が変わっも
その根本に流れる一筋の道だけは、はずせない。
そんな思いがありました。
鎌倉時代の後期、水墨画が禅宗とともに渡来した経緯から、 ロケ地に平林寺を提案したのですが、 平林寺は禅の修行専門道場ですから、 撮影を入れるのは難しく、 しかも「大接心」という１週間外部とは全くつながりを断ち 坐禅三昧の修行（寝る時も禅らしい）の時期で、 当初NHK番組スタッフからの電話は 老師に取り次いでくれなかったそうです。 しかし、撮影スケジュールも迫っていました。
国の天然記念物指定を受けた３万坪を有する古刹「平林寺」
その古寺をあずかる野々村玄龍老師は、私の絵を気にいってくれている人で、 老師の人柄を知る私は、
知りあいの僧に相談をし、 何とか「大接心」明けにスタッフとともに 接見のアポを取るこができました。
老師に私の想いを伝えると、変わらぬ笑顔で
「へー。こどもに水墨画を教えるの。そりゃあ小林さんが適役だぁ。できるだけのことはしますから、副司に話しておきますから。」
事前に知り合いの僧から、 「境内林は大丈夫でしょう。でも本堂はすべての修行の スケジュールを変更しなければならないので、無理でしょう。 平林寺脇にある庵なら、お借りできるかもしれません。」 と聞いていた私とスタッフはその後、
副司さんの
「２日間本堂の大広間をお使いください。
境内撮影希望場所はご案内します。
撮影希望の寺宝の水墨画も、どれでも撮影して
結構ですので、リストから選んでください。」
という言葉に驚かされました。
東雲「え！大丈夫なんですか？」
副司「老師がそうしろと申されました。」
東雲「テレビ撮影が入ったことはあるんですか？」
副司「知る限りでは初めてです。修行道場ですから
外部に見せるところではないのです。」
以前、知り合いの禅僧が「禅の修行はそりゃもう・・・・。
でも、禅は本当はやさしいものです。」と言っていたことが、
少しわかったような気がしました。
撮影初日がやってきました。
早朝から機材の組み立て、収蔵画の撮影 平林寺を訪れるシーンを撮影し、 いよいよ大広間での水墨画練習シーン。
先ずは丸を描かせ、続いて喜怒哀楽の 表現を墨で表すレッスンシーン。 シナリオのセリフを言おうとしても セルフが飛んでしまって なかなか思うようにかみ合いません。
何とか撮影一日目終了。
監督と私は頭を抱えてしまいます。
このまま、ただ漫然と撮影しても、 水墨画を寺で描いただけの平凡な番組になってしまう。
かなりの打ち合わせを繰り返したにも関わらず、 私の望む番組の到達地点と、監督の思う主張にずれがあり、 私がそのずれに妥協しながら進めていたことに原因がありそうでした。
何を伝えたいのか。
水墨画の持つ喜怒哀楽のこころ、
主体を取り巻く周りの空間に対する思いやり
一歩一歩取り返しのつかない真剣勝負。
真剣に繰り出した一手は必ず次の筆で生きること。
水墨画は見えない部分や色彩を想像する、抽象絵画の性質があり、
絵に込めた想いを相手の想像力にゆだねる心の絵画であるということ。
それらはまさに人間の人生観につながるものでした。
それだけの内容を２５分の映像で、視聴者に伝えることが どれほど難しいことか。
いろいろな技法を見せて、楽しく番組を作ることは簡単でした。
しかし、制作が難しい「水墨と心」の問題をあえて描こうと、 監督と、覚悟を決めて撮影に臨んだはずでした。
我々は泊まり込みを覚悟して、夜中まで語り合い、 最も伝えたいことを一点に絞ることにしました。
監督の小田さんは言います
「この平林寺という最高の舞台で、 今まで先生が情熱を傾けてきた水墨画の、 一番伝えたかったこと、
子供たちに、そして、すべての人に伝えたい言葉。 その言葉を見つけるまで私も付き合いましょう。」
「色のない世界には想像させるちからがある・・・・。」
こうして竹藪のシーンが生まれました。
監督はすべてのシナリオを書き変えるために
深夜、会社に帰って行きました。
ホテルにFAXで完成したシナリオが届いたとき、
東の空は、すでに明るくなっていました。
なぜ墨一色で描くのか・・・・。 子供たちと語り合いながら 見つけていきます。
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たけしの誰でもピカソ（テレビ東京）
