水墨画ギャラリー　PART１

					ひとたび紙面に筆をおくと、 描き直しのできない 水墨画の世界。 それは、下描きもなく、 あと戻りもできずに時を刻む 人生の縮図にも思えます。 そこには 数々の失敗もありますが、 たとえ失敗した線であっても、 それが 誠心誠意描いたものであれば 次の筆で失敗を生かし、 より以上の 成果を導くことも多いのです。
そして、喜怒哀楽の起伏のある人生に、 その人の深みや味わいを感じるように、 にじみ、ぼかし、冴え、かすれの変化を さり気なく含んでいる作品は深みを増し、 また、描くものだけにとらわれるのではなく、 それを引き立てる周囲を思いやる心が、 水墨画にとってもっとも重要であるとことに気づきます。 水墨画は楽しみとともに、とても多くの事を教えてくれるのです。
小さな陶の水差しを手にとり、 そっと水滴をそそぎ込むと、 硯は表面の乾きをいやしながら、 静かに眠りから目覚めます。 硯面でゆっくりと墨をすり、 穂にたっぷりと含ませて そっと紙の上におくと、 紙面に墨の波紋が静かに広がり、 深遠な世界をつくり出していきます。 この無限の広がりを持つ墨の世界で 心楽しく遊んでいただくことを 願ってやみません。